第9回勉強会
第9回西日本医学英語勉強会レポート
Session 1:
Workshop on Felix, a Free, Powerful, and Easy-to-learn Computer Assisted Translation Tool
報告者: Y. T.
2016年2月21日に第9回西日本医学英語勉強会が開催されました。
前半は、無料で使用できる翻訳支援ツール「Felix」について、Ben Tompkins先生からデモンストレーションを交えながらご説明いただきました。
Benさんは、医薬翻訳者として活躍しながら、日本翻訳者協会(JAT)の副会長・副理事長としてもご尽力されている素晴らしい方です。西日本医学英語勉強会にもよくご参加いただき、お世話になっています。
まず、翻訳支援ツール(CATツール)は、表現の重複が多い文書において、翻訳速度の向上や用語・表現の統一のために、非常に有用なツールです。
例えば、医薬分野では、計画書(「~する」)と報告書(「~した」)で、同様の表現が多く見られます。この場合、計画書の翻訳の段階で、文節ごとに原文と翻訳文のペアを登録しておくことで、報告書の翻訳時には、短時間で高品質の翻訳を行うことができます。
翻訳支援ツール「Felix」は、以前は350ドルで有料でしたが、現在はhttp://jp.felix-cat.com/から無料で入手できます。 他の翻訳支援ツール(Tradま
osなど)よりも機能が絞られているため、初心者でも使いやすいという利点があります。用語集のインポートも簡単です。
また、Felixは、他の翻訳支援ツールと異なり、Word、Excel、及びPowerpointの内部で動作します。 デモンストレーションでは、各自持参のノートパソコンでも操作を行いながら、分かりやすくご説明いただきました。 例えば、「私はベンです。」=「My name is Ben.」を翻訳メモリに登録した状態で、Wordファイルの「私は太郎です。」を選択すると、下記画面の左上ウィンドウのように翻訳候補が表示されます。
また、用語集の登録も、エクセル上で簡単に行うことができ、登録された用語は下記画面の右上ウィンドウのように表示されます。
以上のようなFelixの基本的な操作の他にも、フォント等の設定方法、Felix特有のエラーなど、実際の使用者の目線で、有用な情報をご紹介いただきました。
全体を通して非常に分かりやすい説明で、「この場合どうする?」というBenさんからの質問に、会場中から答えが飛び交うなど、活発な勉強会となりました。
お忙しい中、発表資料を準備し、ご講演くださったBenさん、そしていつも充実した勉強会を企画・運営くださるakoronさん、本当にありがとうございます。 Session 2日本人の英文 三つの留意点 報告者:Mari Sasaki Session 2では、サン・フレア アカデミー講師としてご活躍中の柳瀬大輔先生に、英訳時のポイントを中心にご講義いただきました。
私自信はほとんど英日しか担当したことがなく、日英に関してはヒヨコ以前のタマゴの状態です。正直、講義をどの程度理解できたか不安が残りますが、タマゴの視点から概要を報告させていただきます。 まず、講義のタイトルにある三つの留意点ですが: ・構文を考える(to know difference in linguistic habits) ・主語を選ぶ(to choose the right subject) ・動詞を選ぶ(to choose the right verb) です。 では、構文から。 日本語と英語では動詞の位置が違う、ということは中学・高校で習います。また、日本語では主語がない文章が多いということも、国語などで習います。しかし、学校では直訳調の英訳を主に教わります。素人なりに、何か違和感を覚えます。 そこで登場したのが、三上章著『象は鼻が長い』でした。(タマゴは、ここで少し胸をなで下ろしました。これ読んだことある!) ・象鼻文(総手文):「象は鼻が長い」 ・うなぎ文:「ぼくはうなぎだ」 ・こんにゃく文:「こんにゃくは太らない」 今回の講義では、様々な日本語の例文を上記のパターンに当てはめ、日本語の特徴について非常にわかりやすくご説明いただきました。 具体的には、situation-focus vs. person-focusつまり、日本語は状況に、英語は人に焦点が置かれており、(和)電話があったよ。(英)Somebody called you. (You had a call.)というような構文の違いとして現れます。 次に主語について。 英訳時には原文から離れて英語脳に切り替え、何を主語にすべきか、を考えます。もちろん、無生物主語をとる場合もあります。また、読み手やクライアントに合わせて、文中で強調したい物は何かを意識しながら主語を選びます。(タマゴは、この点がまだまだ修行不足だと痛感しました) 例文:腎疾患を有する女性の妊娠については、母胎側・胎児側にリスクがあるため、腎機能の推移を含め、厳密な産褥期管理が必要である。訳文1:Pregnancy in women with kidney disease poses risks for both the mother and fetus(以下略)訳文2:Kidney disease in pregnant women pose risks for(以下略) 最後は動詞です。
NHKの語学テキストなどでもお目にかかるstrong verbs, action verbsの登場です。
日本人はとかく間接的な表現を好み、論文ですら断言を避ける傾向にありますが、
Readers expect the action of a sentence to be articulated by the verb.
ということで、講義では、例文中の「〜と考えられる」という部分をすべて1つないし2つの単語(原文にない動詞)で置換しました。
・原因と考えられる→explain
・役にたつと考えられる→promise などなど。(タマゴは語彙が乏しいので、ここにも乗り越えなければならない大きな壁を感じました) さらに、応用編へと続きます。
文学作品を除いて、一般に、英語でも日本語でも簡潔な文章が良い文章と言われています。
例文:本治験で検討した例数は少なく、結果の解釈には限界がある。
訳文(手直し前):The number of subjects enrolled in this clinical study was small, and therefore there are limitations in the interpretation of the results.
訳文(スッキリ編):The small number of subjects enrolled in this clinical study limits(strong verb出たっ!)interpretations of the results.
フレーズの例としては、
5-year history, overnight episodeなど、有害事象報告に頻出しそうなスッキリをご教示いただきました。
また、参考文献も多数ご紹介くださいました。(タマゴには貴重な情報です。早速ググらないと)
感想です。
冒頭のスライドで柳瀬先生が、「あたりまえのことのように聞こえるかもしれませんが、案外ことはそう単純でもないのです」、と書いていらっしゃいましたが、確かに、理解しているつもりで完全には実践できていない重要ポイントばかりだな、とお話を聞いて実感しました。
以上で、Session 2についての報告とさせていただきます。
横道に逸れますが、かなりの数の例文を盛り込みつつも、非常に丁寧に解説する、というプロの講師の技もタマゴ的には非常に勉強になりました。また、質疑応答では活発な意見交換が行われましたが、内容については割愛させていただきます(ぜひ、実際に参加して体験を!)。
西日本医学英語勉強会の皆様、講師の皆様、そして体調不良を押して開催にご尽力くださった畝川さまに心よりお礼申し上げます。久しぶりの広島が嬉しくて、あちこち撮影しながら歩いていたら、広島駅に着いてしまいました。無理矢理付き合わせてしまったCさま、ごめんなさい。
<追記 by akoron> ご登壇者のBenさんは福岡、栁瀬先生は東京、また参加者も県外から大阪、名古屋、福岡、奈良、鹿児島と全国からお集まりいただきました。栁瀬先生は当日帰京というハードスケジュールでしたので、ディナーはJR新幹線と直結したホテルの高層階で!皆さま、本当にありがとうございました。