第6回勉強会
第6回西日本医学英語勉強会レポート Part 1
by T.M.
2015年7月20日、第6回西日本医学英語勉強会が開催されました。今回は「医学英語論文抄読会を魅力的にする10のステップ:初心者からでもできる医学英語論文の効果的な読み方」というテーマで、押味貴之先生にご登壇いただきました。医療通訳や医学英語教育の第一人者である押味先生から医学論文を効率的に読む方法をお話いただけるとのことで、関東、関西、九州など全国から参加者が集まりました。
まず、講義を始める前に、事前に配布された「Journal Club Course – Journal Club Skills: Can-Do Statements」を参加者全員でチェックしました(Journal club=論文抄読会)。これは、論文を効率的に読むために必要なスキルが列挙されているチェックリストで、各項目について、現時点で「できる」か「できない」かを評価するものです。1つ例を挙げると「医学原著論文の題名から結論を推察できる」という項目があります。私は普段から、翻訳者として論文を翻訳したり、資料として読んだりする機会がありますが、「論文の題名だけで結論を推察できるか」と聞かれると、答えは「No」でした。というよりも、題名から「何について書かれたものか」については考えるものの、そこから一歩踏み込んで結論まで推察しようとしたことがなかった、というほうが正しいかもしれません。他の項目についても改めて「できるかできないか」を問われると、「たぶん…できない」という回答が大半を占め、現実を直視するところからのスタートとなりました。
講義は論文の分類からスタート。Original article, special article, review article, editorial, correspondence, perspectiveの区別について説明を受け、さらにそれぞれのカテゴリーどうしの関係性、例えば、original articleとeditorialはどのような関係にあるのかについて学びました。普段、私が仕事で接する論文はoriginal articleが多く、これまでは、まず書かれていることを頭から(または重要と思われるところから)原稿に沿ってひたすら読んでいく、という平面的な読み方をしていました。今後は今回学んだことをもとに、editorialやcorrespondenceにも目を通すことで論文の価値そのものを考察したり、他の類似研究についての理解を深めたりしながら、立体的な読み方ができるのではないかという気がしています。 続いて、さきほど例に挙げた「論文の題名から結論を推察する方法」を伝授していただきました。題名を見ただけで結論を推察できるようになるには、やはりある程度の医学的知識、それがなければ多少のリサーチが必要にはなりますが、ここでは、ただ漫然と読み始めるのではなく、読む前に『こうなるのだろう』という予測を立てることの重要性を改めて認識しました。 研究規模や研究の新規性を確認する方法について説明していただいた後は、evidence pyramidに関するペアワークに移り、case series、cross-sectional study、case-control study、cohort study、randomized controlled trial、systemic reviews、meta-analysisなど、それぞれの定義についてディスカッションをしました。前述した論文の区別についてもそうですが、このevidence pyramidでも初めて聞くような用語や概念はなく、自分ではすでに「知っているつもり」の内容でした。しかし、いざ、それぞれの定義を口頭で説明しろと言われるとこれがなかなか難しく、まして、「この研究はどれに該当するか。case-controlかretrospective cohort studyか」と問われると、「うーん…」と頭を抱える始末。学んだと思っていた知識が身についていないことを痛感しました。押味先生が身近な例を挙げて解説してくださり、それぞれの研究を短い英語一文で定義してくださったおかげで、それぞれの違いがかなりクリアになりました。 ここで講義前半が終了。始めからハイスピードで進められ、息つく暇もないぐらいでしたが、これまでなんとなく、ぼんやりと理解していたことが、はっきりと輪郭線をもって理解できるようになり、ストンと腑に落ちてくる過程がとても気持ちよく感じられた2時間でした。 この後、ランチタイムを経て後半へと続きますが、後半は別の報告者の方にバトンタッチいたします。
(先生を囲んでランチタイム!アンデルセンのランチボックスをいただいています)
第6回西日本医学英語勉強会レポートPart 2
by U.K.
午後の2時間はabstractのresults部分の読み方について学ぶことから始まりました。ここで、統計の基本中の基本である帰無仮説と対立仮説、p値、ハザード比、95%信頼区間について30分間で分かりやすくご説明いただきました。どれも日頃見慣れた用語だったのですが、それぞれの意味や数値の解釈を再確認した上でresultsを読んだところ、内容が驚くほどすっと頭に入ってきました。数値を意識し、統計的な評価をしながら読むことで、結果の理解度が全く違ってくることが分かりました。
続いて、本文のdiscussion(考察)へと進みました。Discussionを読む上で鍵となるのは、「1パラグラフに1トピック」の原則に基づいたパラグラフリーディングスキルであることを教えていただきました。Discussionには構造があり、必要なパラグラフのトピックセンテンスをおさえることで、効率よく内容をつかむことができるのです。これまでdiscussionを漫然と最初から最後まで読んでいた私にとって大きな発見でした。
残る三つのステップでは、editorial、correspondence、conference reportから、それぞれ論文の価値、関連研究に関する情報、論文が社会に及ぼす影響を読み取る方法を伝授していただきました。論文に付随するこれらの情報を得ることは、翻訳者にとっても翻訳内容への理解をさらに深める上で重要だと思います。
今回のセミナーはタイトルに「抄読会を魅力的にする」とありましたが、ドクターの抄読会にとどまらず、翻訳者の仕事にも大いに役立つ内容でした。私は製薬会社で治験文書の翻訳をしていますが、参考資料の論文を読むのに時間がかかりすぎることが悩みの種でした。今後は論文の内容を効率よく把握し、背景知識を深めた上で自信を持って翻訳に取り組むことができそうです。また、今回の教材である一流誌The New England Journal of Medicineがぐっと身近な存在になったことも収穫の一つでした。 さて、講義の終わりに、最初に配られたJournal Club Course – Journal Club Skills: Can-Do Statementsがもう一度配布され、それぞれが自分のスキルを再度チェックしました。開始前には「できない」だらけだった回答が4時間の講義の後にはどれも「できる」に変わり、まさにビフォー・アフター….。一人一人がその日の成果を実感することができるセミナーのスタイルも、押味先生の工夫の素晴らしさだと思います。最後に、分かりやすく、楽しく、決して飽きることのない魔法のような講義をして下さった押味先生、また主催者として今回も準備に奔走して下さった畝川さんに心より御礼申し上げます。以上、関東からの参加者2名による報告でした!
(追記)今回は先生がご多忙なためディナーオフを開催できませんでした。その代わり、台風通過直後にも関わらず全国各地から前日泊で来広くださった医薬翻訳者女性陣と、勉強会前日に「女だらけの前夜祭」と銘打った夕食会を開催しました。オフレコな情報交換で楽しい一夜となり、「これだけでも広島遠征の目的は果たせた」と言ってくださった翻訳者さんも!対面での交流は格別ですね♪ また、何よりセミナー自体の反響が大きく、押味先生の指導者としての力量に圧倒された一日となりました。 by akoron