Essays No. 13
東京の郊外に住む翻訳者のU.K.と申します。製薬会社で社内翻訳者をしながら、ときどき自宅でも医薬翻訳の仕事をしています。これまで西日本医学英語勉強会には数回越境参加させていただき、そのたびにうれしい収穫を得て帰ってきました。畝川さんの細やかなご対応、お心遣いにいつも感謝しております。
さて、猫先生、このたびはご指名をありがとうございます。猫つながりで、今日は医薬翻訳のことではなく、翻訳者としてのわたくしを支えてくれている存在、猫について書きたいと思います。猫が好きではない方、お許しください。
我が家の庭にたびたび来ていた野良猫が2匹の子猫を連れて現れたのは一昨年の9月頃のことでした。もともと家には猫が2匹いましたし、母猫はここなら子供たちが十分な食事にありつけると考えたのでしょう。猫好きのわたくしは動揺しながらも捨て置けず、縁側に段ボール箱を用意したところ、さっそく2匹で中に入りすやすや眠っていました。その日から、子猫たちは庭猫として縁側の段ボールハウスで暮らすようになったのです。
子猫は1匹が女の子。もう1匹が男の子。名前はとつぜんのひらめきでそれぞれ「いちか」と「ばちか」と名付けました。そう、2匹あわせて「いちかばちか」です。覚えやすいですね。
あどけない顔をした子猫たちが毎日お腹をすかせてご飯をねだったり、おもちゃで遊んだりする姿はそれは可愛らしいものでした。触ろうとして近寄ると警戒して逃げてしまうのが残念でしたが…。
昨年3月には近くの動物病院から捕獲器をお借りし、やっとの思いで捕まえて母猫も含め順に不妊手術を済ませました。猫を保護する上で避けられない務めです。捕獲器に入れたときの暴れようと鳴き声には胸が痛みましたが、病院から連れ帰って庭に放してあげると、恐怖を忘れたのかその日のうちにまた寄ってきてくれました。それからは食事の場所も縁側から家の中へと移り、だんだんと距離が縮んでいったのです。
そして今、いちかとばちかはわたくしの仕事机の下に住んでいます。どうやら家の中の一番居心地がよい場所が机の下だったようです。今も手を伸ばすと、あたたかくてフカフカした身体に触れることができます。2匹ともびっくりするほど大きくなりました。本当に仲のよいきょうだいで、いつもぴったりとくっついて眠っています。毎日外に遊びに出かけますが、必ず机の下に帰ってきます。もう庭猫ではありません。
まだ生まれて2年に満たない若い猫たち、あと20年近く生きるとしたら、果たしてわたくし自身は彼らを看取るまで生きているのだろうか、と考えるとそれこそ「いちかばちか」なのですが、今は二つの小さな命を守ることができる暮らしがありがたく、わたくしの翻訳者としての生活の心の支えになっています。
以上、医学とも英語とも直接関わりのない、仕事机の下に住む猫のきょうだいの話でした。お読みいただきありがとうございます。また広島で皆様にお目にかかれるのを楽しみにしております。