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Essays No. 7

ロサンゼルスを舞台にした医療ドラマにハマり、111話すべて見ました。

                     転んで見えた世界

                                                                              by K. Y.


 

 

 

   西日本医学英語勉強会の皆様、はじめまして。広島県内の歯科医院に勤務しております歯科衛生士です。
日頃、文章は診療記録以外では書くことがほとんどありませんが、この度、機会を頂戴いたしましたので、医学英語を学び始めた経緯と歯科衛生士の役割などについて書かせていただきたいと思います。

 医学英語を学ぶきっかけは、海外旅行中に病院を受診したことです。治るケガだからよかったのですが、航空券代よりも高い医療費を支払ったのが、ロンドンオリンピックのあった年のこと。英語を再び勉強し始めてから1年経ったその頃に、ロサンゼルスの親戚宅へ行く機会に恵まれ、5週間滞在する予定で出国しました。
私にとっては旅行以外での初めての海外滞在。ホームパーティーを楽しみ、語学学校にも通い、外国人の友達ができ、順調に3週間が経過した頃に、親戚のすすめで、突如サンフランシスコへ一人旅に出かけました(親戚の義母が住む都市です)。

 一人で観光中、フィッシャーマンズワーフからゴールデンゲートブリッジへ向かうために横断歩道を渡っていた時のことです。ガクッとわずかな窪みに右足が落ち、ゴキッという音と共に激しくひねり、膝から崩れ落ちました。

翌朝、親戚の義母(アメリカ人)のかかりつけ医に診てもらった後、近くの総合病院へ行きました。車椅子に乗せられ、レントゲンを撮り、なんと、骨折の診断を受けました。目の前の真っ白な足の骨に一筋の黒い骨折線が入ったレントゲン画像を眺めながら、これからどうなるのだろう… と救急処置室(ER)のベッドに横たわり長時間待ちました。順番を抜かされまくった挙句に施された処置は、ペラッとしたシーネ(添え木)を足首に添えて包帯をくるくる巻かれただけ。松葉杖を渡されて帰宅。日がすでに落ちた真っ暗な空を見上げました。

翌朝はまた別の医院へ。青空の下で輝く金門橋を渡った先の整形外科でギプスが必要と言われました。手術や入院は免れることができましたが、予約していた観光ツアーは当日キャンセルのために代金を請求され、予定していた復路の飛行機には乗れず、帰国まで残り2週間だというのにギプスは少なくとも5週間の装着が必要と言われ、医療費の総額は10万円…。 サンフランシスコに来るんじゃなかった… 

と思ってしまいそうですか?

しかし、医療従事者であった私は、ドラマで観たERの世界が目の前にあることに感動し、色とりどりの診療着を纏ったドクターを目で追い、飛び交う英語に耳をすませ、薬品の臭いすら記憶に留めるように呼吸し、長い待ち時間も退屈することなく、貴重なアメリカ医療施設巡り・受診体験を全身で味わっていました。



























 

 

 ロサンゼルスの親戚宅に松葉杖と共に戻った後の暮らしは大変不自由でしたが、アメリカでの通院療養生活はなかなか快適なものでした。広々とした家、エレベーターのある学校、靴を脱がない文化、車社会、電動車椅子を無料で貸出してくれるショッピングモールや美術館、至る所で声をかけて親切にしてくれる人々。滞在期間をギプスが外れる予定日まで延長し、その6週間余り、制限をほとんど感じることなく通学や外出を楽しみました。
一方、日本に帰国後、空港を一歩出た後に待ち構えていた試練はなかなか厳しいものでした。松葉杖(ギプスが外れずに帰国)で重い荷物を背負って階段(しかない所)を息を切らしながら上がっていても、駅員すら知らん顔。トイレもエレベーターも狭く、あちこちに段差があり、バスに乗っても席を空け声をかけてくれる人はいませんでした。日本は弱者にとって厳しい国なのだと初めて実感したのです。病院へ行っても事務的で淡々としている印象を受け、アメリカでの看護師や理学療法士達の気さくな対応を思い出し、かつての自分を振り返る非常に良い機会となりました。

 長年勤めてきた「歯科衛生士」という職業にはいくつかの役割があり、法律に定められた業務は三つ、「歯科予防処置」と「歯科診療補助」、「歯科保健指導」です。「歯科疾患の予防及び口腔衛生の向上を図る」ことが歯科衛生士の役割(歯科衛生士法第1条)ですが、歯科医師と患者さんを繋ぐ「架け橋」の役目や患者さんの不安をやわらげることも含まれています。
歯科医師に患者さんの情報を提供したり、歯科衛生士が代わりに患者さんに説明をしたり、質問に答えることなどは、口腔内の健康に直接働きかけるわけではありませんが、重要なことです。
また、院内での日常会話も欠かせないものです。歯科を受診される方の大半は緊張しておられるので、挨拶にはじまり、天気やカープ談義などの世間話でリラックスしてもらい、信頼関係を育み、治療中の緊張から起こるショックの危険性を減らすことにもつながります。

 このような歯科衛生士の立場からの視点と、アメリカでの病院巡りの中で英語が分からず非常に苦労した経験から、医学英語に関心を持ち始めました。自分と同じように、世界中の病院で言葉が分からず不安な思いをしている人たちの手助けが私にできたら、と思ったのです。
最近は、歯科領域で深めたい知識や最先端の情報をアメリカやオーストラリアの記事や論文から収集し、臨床現場で活かしています。
外国語の分かる歯科衛生士を含めた医療従事者が増えることで、外国人患者の利益となるのはもちろん、何よりも日本の医療の進歩につながるだろうと思っています。
一市民として、街中で困っていそうな人には積極的に声をかけ、一医療従事者として研鑽を積み、患者さんの健康回復や維持管理に貢献できたら幸いです。
西日本医学英語勉強会のますますの発展を願っております。

お読みいただきありがとうございました。

 

 

西日本医学英語勉強会
West-Japan Medical English Workshop

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